不死鳥の唄 1海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「姫様、どちらにおられますか~!」 「姫様~!」 時は戦国。 東郷家の一の姫・海斗は、輿入れの日に家から飛び出し、馬に乗りある場所へと来ていた。 そこは、森の中にある小さな湖だった。 汗を洗い流す為、海斗が湖の中へと入った時、遠くから蹄の音が聞こえて来た。 「こちらにいらしたのですか、姫様。」 「ナイジェル・・」 「こんな所にいらしたのですね、さぁ、帰りましょう。」 「嫌だ。」 ナイジェルは、馬から降りると海斗に向かって手を差し伸べた。 しかし、海斗はナイジェルを睨みつけると、そのまま向こう岸まで泳いでいった。 「姫様、お待ちを!」 「俺の事は、放っておいてよ!」 海斗がそう叫んだ時、彼女は藻に足を取られ、湖底へと沈んでいった。 「姫様~!」 乳母が悲鳴を上げる中、ナイジェルは湖の中へと飛び込み、海斗を湖の中から救い出した。 「大丈夫ですか?」 「うん・・」 「さぁ、戻りましょう。」 ナイジェルは海斗に着物を着せ、屋敷へと戻った。 「姫様、こちらにいらっしゃったのですか!」 「さぁ、姫様を早くお部屋へお連れして!」 屋敷の奥から東郷家の女中達が出て来たかと思うと、瞬く間に彼女達は海斗をナイジェルから引き離した。 「さぁ海斗様、お方様がいらっしゃる前に早く・・」 「海斗!」 女中達が海斗を着替えさせていると、部屋の襖が勢いよく開き、海斗の母・友恵が入って来た。 「何ですか、その格好は!」 「母上、俺は・・」 「先方にはわたくしが謝って、輿入れの日を延期して貰いました。」 「母上・・」 「何と言おうと、お前をロックフォード家に嫁がせます。」 友恵はそう言って海斗を睨むと、部屋から出て行った。 「ねぇ、ロックフォード家の若様って、どんな方なの?」 「さぁ、わたくし達も存じ上げませんが、ジェフリー様はかなりかぶいた者らいしとか・・」 かぶき者とは、派手な身なりをしたならず者の事で、ロックフォード家の嫡男・ジェフリーに関する悪い噂は、遠くにあるこの東郷の地にも届いていた。 「そのような方と、姫様が夫婦になるなど・・」 「いくら同盟を結び為とはいえ・・」 「姫様が可哀想・・」 海斗は、女中達の話を一切聞かないようにしていた。 (ナイジェルが、俺の家族だったらいいのに・・) ナイジェルは海斗とは腹違いの兄で、幼い頃から海斗の守役として暮らしていた。 海斗とナイジェルはいつも一緒だった。 だが、母親の身分が低い所為で、ナイジェルは東郷家の一員としてではなく、使用人の一人として扱われていた。 海斗は、ジェフリー=ロックフォードという、まだ見ぬ夫に想いを馳せていた。 同じ頃、そのジェフリーは、今日も派手な身なりをして仲間達と遊び歩いていた。 ―あれは・・ ―ロックフォード家の若様だ。 ―近づいては駄目よ。 ―あぁ、恐ろしい・・ 通行人達の声を聞きながら、ジェフリーは只管前を向いて歩いていた。 (何とでも言えば良い、俺は何ひとつ恥じるような事はしていない。) 長い金髪をなびかせながら、ジェフリーは仲間達と別れ、森の中へと向かった。 「誰も居ないか・・」 ジェフリーはそう呟くと、湖の中へと入っていった。 「ジェフリーは何処だ!」 「お館様、どうなさったのです?」 「ジェフリーが何処にもおらん!」 「ジェフリー様はもう幼子ではないのですよ、放っておかれては?」 そう言ってジェフリーの父・ジョンの元にやって来たのは、彼の側室のラウルだった。 「そういえば、ジェフリー様が嫁を貰うとか。」 「あぁ。相手は東郷家の姫だとか。何でも、詩歌に優れている美しい姫だと・・」 「まぁ、早くお会いしたいものですわ。」 ラウルはジョンにしなだれかかると、そう言って笑った。 「その姫も不幸な身の上よ、我が国と同盟を結びたいが為に、東郷が人質を差し出すようなものだ。」 「そのような事、当たり前でしょう。まぁ、その姫がこちらに嫁いだあかつきには、わたくしが姫をしっかりと躾けますのでご心配なく。」 「そ、そうか・・」 側室でありながら、ラウルはロックフォード家で権勢を振っていた。 正室であるジェフリーの母はジェフリーが幼い頃に病没し、ジェフリーを実母代わりに育ててくれた乳母もジェフリーが元服してから亡くなった。 ジェフリーはラウルと折り合いが悪く、次第にジェフリーは悪い仲間とつるむようになった。 「ラウル様・・」 「東郷家の姫について、調べなさい。これから、“家族”になる相手の事をもっと知りたいわ。」 「はい・・」 海斗は、日に日に迫って来る輿入れが不安で堪らなかった。 「姫様、溜息ばかり吐いてどうなさったのですか?」 「ナイジェル・・」 「輿入れの日は、俺も傍に居ますから安心して下さい。」 「ありがとう、ナイジェル。」 そして、遂に輿入れの日が来た。 「姫様、どうか気を付けて。」 「ありがとう、ばあや。」 「いよいよですわね、海斗姫がこちらに輿入れされるのは。」 「あぁ、何事もなければ良いが。」 「ええ。」 ジャンル別一覧
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